ぼちぼち、ポタポタと乗ってます

エタップ・デュ・ツール参戦記2006~ロータレ峠⇒ラルプ・デュエズ~

ロータレ峠の予想以上の苦戦のため、ラルプ・デュエズの麓ブールドワザン16時が微妙な状況です。ギリギリ間に合うかどうかと言ったところです。とにかく必死に走ります。ロータレ峠からブールドワザンまでは39km。標高735mまで下ります。ブールドワザンまではほとんどが下りですが、それほど余裕はありません。
 
下りは先程のイゾアール峠の下り同様に慎重に下りますが、ガードレールが無い箇所があったりしますが、道幅も広く、路面状態も良く、いい感じで下って行きます。途中道の両側に滝があり雄大な景色が応援してくれますが時間的に止まって写真を撮る余裕はありません。
 
ほぼ下りきって後数キロで麓という時、本日3回目のアクシデントが発生です。今度は後輪のパンクです。信じられません。パンクなんて滅多にしないのに、よりによってこんな大事な時にしかも1日2回なんて初めてです。パンクに気付いた瞬間に“俺のツールが終わった!”って感じでした。とりあえずパンク修理します。意気消沈、モチベーションダウンの中、携帯ポンプで空気を入れていると、右手が攣りました。(笑)1日2回のパンクは腕の筋肉にかなり利いたみたいです。
 
結局麓のブールドワザンに到着したのが16時05分頃でした。バスに収容されるにしてもどうしたら良いのか分からないためとりあえず、水を補給し、ラルプ・デュエズへの登り口を写真に撮ろうと思い自転車を押しながらゲートが締まっているラルプ・デュエズへの登り口に行ってみました。
 
ゲート前にはスタッフの方がいて、柵で道を閉鎖しています。“あ~あ、残念やなぁ~”と思っている時、ふと私の頭に昨日バスの中で聞いた添乗員さんの話がよぎりました。以前参加された方が私と同じようにタイムアウトになった時にスタッフの人にお願いしたら通してくれたという話です。
 

ダメ元で柵の前にいるスタッフの人に頼んでみることにしました。日本式に両手を合わせ頭を下げ、2度3度と。すると何と!笑顔で柵を明けてくれました。“俺のツールはまだ終わっていない!”スタッフの方にメルシー、メルシーの連発で挨拶を済ませ、急いでコースへ入って行きました。結果的にはこれが地獄?の始まりでした。
 

ラルプ・デュエズはツールの聖地とまで言われ、数々のドラマを生んだコースです。距離13.8km、標高差1090m、平均勾配は7.9%です。これらの数値は当然頭にインプットされてましたが、“最後にキツい登りやなぁ~、まぁ、ゆっくり登れば何とかなるやろう”程度でした。しかし、コースに入っていきなり何ともならない事が分かりました。いきなり目の前に現れたのは10%を軽く越えていると思われる激坂です。
 

この時点で175km走ってます。もう脚が回りません。蛇行をしながら登りますが、ハンドルふらふらでメーターは5km/hを切ってます。右足のクリートが何ていうレベルの話ではないです。初めての体験でした、ここまで脚が回らないのは。。。周りを見ると皆自転車を降りて押してます。
 
沿道には多くの応援の方がいますが、“アレ~、アレ~”の応援を背に受けて自転車押してます。私もついに乗るのを諦め降りて押すことにしました。屈辱のロード初押しです。後々、これが自転車人生初のハンガーノックということを知りました。ロータレ峠でも、ブールドワザンでも補給してませんからね。もうここから、ゴールまではレポートにするような内容はないですね。カッコ悪いレポばかりです。
 

ご存知、ラルプ・デュエズには21のつづら折りがあり、そのコーナーには写真のような番号標識があり、歴代の優勝者の名前が刻まれてます。通常はゴールまでのカウントダウンとなる数字ですが、私の場合、休憩までの目印になってしまいました。
 

特に21から17までは傾斜がキツく、押しては休み、休んでは押しの繰り返し。17からやや傾斜も緩くなり何とか乗ることが出来ましたが、それでも16で休みました。(笑)15でも。。。14.。。13.。。。全部休んだ記憶があります。(笑)最初の激坂ほどの傾斜はないものの、中盤もキツい傾斜は続きます。相変わらず、乗っては休憩、休憩しては乗り、そしてたまに押すの繰り返しです。時刻は6時前、けどフランスの夏の日入りは9時過ぎです。まだまだ強い日差しです。
 

熱中症、脱水症で運ばれた人がいたので、水分補給だけはこまめに行ないます。一応麓のブールドワザンでダブルボトル満タンにして来たので何とかゴールまでもちそうです。途中湧き水が流れ落ちている箇所が何箇所かあり、ここで役立ったのが、“必勝ハチマキ”です。これに湧き水を湿らせ、頭や首、太股を冷やします。メチャクチャ冷たく、気持良かったです。ある意味これが無かったらバテていたかも知れません。
 

ラルプ・デュエズを登り始めてどれくらい経った頃でしょうか。バイクに乗ったおじさんがやって来て、何か言ってます。当然フランス語なので分かりません。けど私の足下を指差しながら何か言っているみたいで、どうやら足に巻いている計測用のチップを回収しているようです。ここでチップを取られたら記録が残りません。当然「No!」と断りますが、おじさんも「返せ!」と言っているみたいで、仕方がないので返すことに。これで公式記録は無しということになり、正式な完走扱いにはなりません。
 

“もう止めようかなぁ、バスに乗ろうかなぁ、”と思ったりもしましたが、やはり自力で登ってみたい、正式な完走でなくてもいいから、完走したいという思いが強く、頑張って登ることにしました。番号標識もやっと一桁になった頃、救護用の車がやってきて“乗るか?”と聞いてきます。私はゴール地点の方向を指して“I want to go !go!go!(こんな英語絶対にないと思いますが、“ゴールへ行きたいんじゃ~”と言ったつもり。。。)運転者のお兄さん笑いながら去って行きました。
 

ゴール地点のスキー場のホテル街(ラルプ・デュエズはフランスでは有名なスキー場です。)が見えてきたあたりで最後の激坂がやって来ました。難なく“押し”でかわして1番の標識をクリア、やっとゴールかと思いきや、まだ続きます。ちょっと拍子抜けですが、最後はお土産屋街?の横を通り左に曲がればゴールゲートが迎えてくれてます。
 

既に制限時間を1時間以上も過ぎているのに、まだ何人かは応援の人がおり、最後まで“アレ~、アレ~、アレ~”と応援してくれてます。感動でした。嬉しいです。もう言葉がありません。そして疲れました。けど完走しました。自分自身の中では間違いなく完走です。
 

ゴールの瞬間の写真です。さすがに疲れきった顔してますね。(笑)そして間違いなくこの日が私の短い自転車人生の中で最大に感動し、最高に疲れた1日になりました。素晴らしい経験をさせてもらったEtape du Tourに感謝します。

そして今年2016年、この感動を再び味わうために今週末フランスへ向かいます。